WE ARE THE NORTH WEST

#68 Not Good Enough



マジョリティは最初からそうなることを望んでいたと思う。スーパースターがトレードを求め、その行方をサーカスのように見守る。頂点に君臨するスーパースターが自身の行きたい場所を秘密にしない時代。そのためプレイオフは勝者を決めるだけでなく、敗北したスーパースターの移送を簡単にするために行われるようにも見える。

しかし、その都度思う事がある。近年ではアンソニーデイビスジェームズ・ハーデンが行先も明言されるほど公にトレードを求めた。僕はそれを遠目から『なんかやってんな~』と眺めている感覚だった。なぜなら、唯一贔屓にしているポートランド・トレイルブレイザーズの絶対的スーパースター、デイミアン・リラードは何が起こっても移籍しない『彼らとは違う』という自信と安心があったからだ。

www.theplayerstribune.com

僕はそもそもバスケットボールに関した知識なんてマイケル・ジョーダンスラムダンクしか無かった。きっかけは些細な事だったけど、15'16からブレイザーズの試合を見るようになり徐々にNBA全体を好きになっていった。一番最初の年に奇妙な快進撃を行ったせいで一気にブレイザーズにハマってしまった。圧倒的敗者がマジョリティを覆していく様子が面白くてたまらなかった。

それから『どんでん返しのブレイザーズ』が巻き起こす劇に惚れこんだ。その後の数シーズンは傍目から見たら停滞したシーズンとも言えたが、前半で苦しんで後半で巻き返すという展開が毎シーズン起こった。すべり落ちそうなところから何度も踏ん張った。しかしブレイザーズのプレイオフは散々で、当時若いスーパースターだったポール・ジョージジミー・バトラーがトレードリクエストを求めたこともあり、NBAとはそういう物だと感じた。だから、リラードやマッカラムも同じ道を辿るのだろうと漠然と思っていた。

リラマコブレイザーズ崩壊最大の危機は2018年のプレイオフシリーズにあった。例によってオールスター明けから快進撃を続けたブレイザーズは第3シードを掴み、初めてプレイオフで勝者予想をされた。しかし、結果は赤っ恥ともいえるスイープ。どんなにブレイザーズびいきであろうと、あの敗北には何の言い訳も立たなかった。ただ、成す術なく負けた。小さなガード2人でプレイオフに勝つことは困難を極める。その理論を決定づけるシリーズとなった。

Damian Lillard

2018年の夏はあちこちでリラマコトレード報道が出現し、トレード待ったなし状態だった。誰もがブレイザーズが大きな動きをすると思っていた。しかし、何も起こらなかった。核どころかロールプレイヤーもほとんど動かず、痛みを引きずったままの選手たちが成長し変化することに頼った。それは結果として成功した。僕は18'19シーズンより楽しいシーズンを知らない。彼らはチームだった。個人の成功じゃなく、チームの成功を心から祝おうとする「チーム」だった。これは、17'18の悲劇なくして起こっていない。


満場一致で新人王となったミッドメジャー出身の新鋭、デイミアン・リラードは2014年のプレイオフで決めたブザービーターで一躍クラッチプレイヤーとして名を広めたが、長年新進気鋭のスターという領域を出なかった。リラードが目に見えて変化したのが18'19シーズン。

前年の失敗の責任をコーチングではなく自身にあると考えていた彼が、結果という形で汚名を返すことを選択したからだ。スターであるが故のBEEFも多く生まれ、誰もが認めるスーパースターになった。失敗したからチームを変更するのでは無く、自分を変更することによって成功に導くという姿に感銘以上の何か、言葉にならない感動をもらった。

Damian Lillard

不幸な怪我もいくつかあった。ユスフ・ヌルキッチがアノ怪我を起こした時、誰もが絶望の淵を感じた。彼はブレイザーズにとって信じられないほど重要な選手だった。プレイオフの成功を予兆できたのは、彼の成長があったからだ。

ファンと選手の絶望をよそに、リラードはさらに自身に変更を加えた。その姿、モーメントを見たときにリラードがブレイザーとしての成功に誇りを持っているということに気づいた。リラードはエゴの塊だ。恐ろしく執拗なまでにブレイザーとしてのリングを望んでいる。それが、彼を信じられないほどのプレイに導いている最大の動機だと思った。

ロスターを一新して迎えたシーズン。ヌルキッチの負傷に続き、最後のロッタリー指名者であるザック・コリンズが長期的に離脱することが分かったとき、一ファンとしてシーズンが終わったと思った。元来守備の統制が取れていなかったブレイザーズにとってそれは追い打ちをかける出来事。

ディフェンスリーダーになるはずだったコリンズの離脱はチームを脱線させるに相応しいと感じていた。たかだが3年目の選手にそれぐらいの圧があったと思うと、チャンピオンシップなんて夢のまた夢である。19'20'と20'21シーズンはカーメロ・アンソニーの遺産を守るための組織と化した。しかし、彼がいようがいまいがブレイザーズの成績に変化は無かったと思う。

Zach Collins

2021夏。再び2018夏と同じようなオフシーズンがやってきたように感じた。弱体化していたナゲッツに完敗し、リラード周囲の構築が明らかに不十分と判明したブレイザーズ『リラードはリングを高確率で獲得できるチームへと可及的速やかに移籍すべき』と見出しが出れば、待ってましたと言わんばかりの盛り上がり。

再び渦巻く噂を見て思う。ああ、これはただの演し物だときっと誰でもいいのだ。NBAのスーパースターがトレードを求め、その行方がどうなるのか。どうやれば自分の贔屓チームにスーパースターがやってくるのか。そういう娯楽だと。でも、それは真のスーパースターの証でもある。彼はミッドメジャーから真の次元へと進化を遂げたのだ。

Damian Lillard

リラードは広義的に『NBAのスーパースターの1人』かもしれないが、ブレイザーズファンにとって彼はただのスーパースターではない。ファン人生の中で2度と出会うことのないスーパーフランチャイズプレイヤーであり、である。いついかなる時もリラードはリラードだ。彼には彼だけの信念と考えがある。噂は本音ではなく、雑音。そこに真実はない。本人の意志がどう告げるのかをファンとして見守りたいと思う。


疑われて疑われてスーパースターとなったリラード。幾度となく高い壁を越えてきた北西部のスターの背中からあふれ出るのは、哀愁と決意。一ファンとして'21夏は'18夏ほど過酷であると感じていない。リラードは31歳になり、NBAの世界でいう後退期に突入していく時期だ。彼のリング獲得チャンスを最大限にするためトレードを行うとしたら今だと思う。

しかし、それが起こる可能性はやはり0%であるとも感じている。それは、リラードとブレイザーズをここ6年見続けてきて感じる根拠のないファンとしての希望的観測。なので、ブレイザーズの今オフ最大の変化はコーチングの変更だけと言える。他に目玉と言える変化は無い。けれども、この変更はリラードにとって大きな変化と言える。そして再び弱者として疑われる中、21'22シーズンを迎えるのだ。

変動の激しいNBAで、ブレイザーズは奇妙なチームだと思う。リラード/マッカラムを核としたロスターは21'22で7年目を迎える。リングを獲得したスプラッシュブラザーズならともかく、運込みでWCF止まりのコンビをまだ続けようとしている。一見、平凡を好み続けリラードの最盛期を逃すバカなチームにしか見えないが、それは未だ今現在のお話に過ぎない。

リラードが他の選手、人を圧倒するのは強靭なレジリエンスだと思う。いやもう無理だろと思ったところから回復する力。そして単純に、NBAでも異質とも言えるデイミアン・リラードというスーパースターが頂点で成功する瞬間が見たいと思う。彼らが紡ごうとしている物語を最後まで見届けたい。その結果がどうであれ、もう僕たちはデイミアン・リラードという人間に陶酔してしまっているのだから。

彼の究極の目標が叶うことを祈って。